東北の冬は雪が沢山降り、そのおかげでスキーが盛んです。会社に就職・実習期間を終えた途端に地方工場配属となり、落胆が大きかった私ですが、必死に我慢して数年勤務、その後、職場の同僚や周りの人の温かい親切もあって次第に元気を取り戻し、自然の中を歩くこともするようになりました。

　「東北の冬は遣ることがない」と思っていたのは勘違いでした。東京などの都市圏より遥かに素晴らしい。特にスキーはブームになっていたこともあり、シーズンに20回以上もスキー場に出かける年もありました。

　家からスキー場まで、車で30分か1時間半程度。高湯のスキー場などは、家で双眼鏡で込み具合を見てから出かける、などという芸当もできました。金曜日の夜か土曜の朝に家を出て、かの有名な蔵王に出かけることも可能でした。日曜日には都会からのお客さんでごった返すスキー場も、土曜日は空いています。米沢や栗子にはよく行きましたし、連休には秋田や岩手まで出かけました。

　山を始めてからは山スキーを遣るようになったのですが、其の後半の頃のお話です。

　安達太良山域に和尚山という単独峰があります。山の師匠と二人、この山に山スキーに行くことになりました。登りは順調で、スイスイ状態。山頂は、西側は草原で緩やかに雪が付いていますが、東側は岸壁で、30mくらい垂直に落ちている。そこに雪庇が発達していて、師匠はその写真を撮ろうと目論んでいました。

　途中でフィルム交換をしている師匠と離れて、少し先行したのが失敗でした。少しガスが掛かっていて、どこが山頂か分かりません。「山頂手前で待てば良いや」というつもりで進んで行きました。だいぶ平の感じもしたので、足元に草の生えているのを確認しながら進んだのですが、一歩右足を踏み出したら変な感じです。その時でした。

　足元から厚みのあった雪が真下に落ちて行った！

　そうです。雪庇の上まで来てしまっていました。落ちて行く雪の下、20mほどに、岩場の下から伸びている雪の斜面が見えており、そこに向かって雪の塊がゆっくり落ちて行って、パンと砕けた・・・。まるで映画・クリフハンガーで、登山者が落ちて行くような光景でした。

　あっと思った瞬間に、左手で少し見えていた草を掴みました。それで重心が左側に保たれ、落下を防ぐことが出来ました。後から見ると、右足のスキートレースの所から雪が無くなっていた。間一髪の感じでした。

　今回も神様に救われました。ただただ感謝あるのみ。

　下りはスキーで降りてきましたが、藪が多くて、真っすぐ進んでは方向転換。そのうちに草臥れて、転んでばかり。30回くらいは転びました。ゲレンデスキーとは違って、山スキーは、足の筋肉で独特の姿勢保持をしなければ転んでしまいます。

　それからも懲りずに山スキーには行きましたが、九死に一生を得た際どい山行でした。