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パニック障害

 若い頃、世界で一番有名で規模も大きいカメラ製造会社に勤めていました。入社して3か月で地方の工場に配属になり、それからずっと製造工場での生産技術畑。工場は1,700名ほどの規模で非常に大きく、モールド成型装置・旋盤などが並ぶ部品加工職場や、部品にメッキを施す化学職場、何百人もの女性が並んで沢山のラインを為す組立職場があって、日々、目の覚めるような速度で製品が製造されていました。

 カメラは精密機械製品ですが電子化が始まっていて、光学レンズ技術や精密機械技術・化学技術だけではなく、電子技術が詰まった製品が作られ始めていた。それらの技術による、世界に類のない小型で精密な動作をする性能の高い製品を、極力安く作るのが、工場の使命です。

 

 担当したのは、組立職場で使用する検査装置や製造機器などを、次の製品に合わせて準備・稼働させる仕事です。一つの装置は、構想・設計・製作・調整に3か月くらいを要するので、丁度よいくらいのスパンで一つの仕事が完結します。カメラ内の電子ユニット(フレキシブルな基板上に構成されていたので、フレキと呼んでいました)のユニットでの動作検査や最適調整、また、組み立て各工程では、光源や被写体を用意しておき、数十項目に亘って測定やテストを行って、電子回路内の記憶回路部分に調整値を書き込むことが行われます。(部品を取り付けては検査を行う、という工程の連続です)

 それぞれの機器の調整に、或る意味、クイズを解いて行くような楽しさがあり、装置開発にはずっと楽しさを感じていました。

 また、ラインで稼働しているそうした装置が故障してラインがストップすると、一日で億円の単位の損害が出ますので、新製品のラインの準備と並行して、現行製品のラインでの装置稼働保全も大事な仕事でした。

 

 地方工場が東北にあるうちは、夏は山に、冬はスキーに、と身体を動かして健康にも良かったのですが、日本の賃金上昇に伴って、仕事は、東京⇒東北の地方工場⇒九州の子会社⇒中国や台湾、マレーシアの外国工場へと流れて行ってしまいます。東北の工場が設立されて3年目の入社・配属でしたが、その後、仕事自体が九州へ移動、同僚や部下の中には、その後、アジアの工場へ赴任する人もおりました。

 

 40を過ぎた頃、50名ほどの課の課長になって張り切って仕事をしていました。九州の工場はカメラ生産の拠点で、外国工場へ装置を送ったり設置に行ったりの仕事もあり、海外の技術者へのテクノロジー教育も担当していましたので、日々は忙しく、海外から来る人の応対の仕事も忙しかった。また、時代は世にパソコンが普及し始めた頃で、検査装置が「Z80基本の自家製小型コンピュータ」による制御形式のものから、PC98に代表されるような汎用PCによって制御されるものへと移り変わろうとしていました。NHKの番組で、ライバル会社(日本の有名なN社)の組み立てラインでNECの98シリーズが使われているのを見て、私たちも汎用コンピュータと汎用ソフトを使うようにしないと、技術者のスキルが世界標準に追いついていけない、と感じ、使用技術の変更を行ったこともありました。

 

 PCが普及し個人でも使えるようになり、CRTによるカラー画面でソフトが作れ、文章が書けるようになった。残念なことは目が疲れるんですよね・・・。外国からのメンバーとの応対で英語の能力不足も身に染みて感じていたので、総務課と相談して「英語教室」も開いてもらった。そんな風にして、あれこれスキル獲得に手を出していたら、頭が興奮状態のまま日々、推移して行くのか、3時間程度の睡眠でも遣っていける日が続いた。ISO9000への対応もあって、そのルール造りや実践、結果の記録など、全社いつも忙しい状態でもありました。(工場の管理職はみんな真面目で仕事熱心です。私はそれでも週一日は休んでいましたが、ほとんどの課長は土日も出勤しておりました)

 

「これで大丈夫かなあ?」と内心は感じていたのですが、或る日、会議が終わるころ、頭の中で「カメムシの臭い」みたいなのがして、どうか変な感じがし始めました。心臓の鼓動もどうも妙な感じです。慌てて、これは高山でなる酸素不足かと考え、呼吸を早めに繰り替えしていたら、心臓が更にバクバクして来て、足からしびれ始め、胸まで身体が動かなくなりました。

 病院で過呼吸と診断されて「大したことはない」と返されましたが、翌日出かけた本屋の帰りに地下道で気持ちが悪くなって動けなくなり、結局暫く入院、様子を見ることになりました。疲れ果てていたらしく3日間寝っぱなしだったり、お見舞いに来てくれた上司と話すに、3分ほどで冷や汗びっしょりだったり・・・。2週間休んで退院後、家に帰っても、身体に力が出ずに、自分で風呂桶が洗えないような状態でした。

 

 そんな風に始まった体調不調でしたが、心療内科の先生曰く、

「心配いりません、こういうのは誰でもなります」とのことで、私個人の特別な症状ではなく、「ISO9000対応を進めている、これまた世界で一番有名な陶器会社の管理職も、大勢此処に遣ってきます」との言葉もあって、胸を撫でおろしました。

 が、課長が体調不調では仕事にならず、上司の勧めもあって本社開発部での勤務に異動となりました。

 

 人間、頑張りには限界があります。数か月はその状態が保てるかもしれないけれど、或る時点を過ぎると無理が祟って大きな障害が出る。そうなってからでは遅いです。

 先生曰く、「指を切った位なら2週間で治る。大きく切ると1か月掛かる。内臓や骨は数か月。頭は年のオーダーです。あなたの場合は3年ほどですね」

 無理はしないことに決めました。

 

 その後の養生で無事に会社生活は送れてきましたが、確かにその3年は不調で、薬も飲んだりしていたので、勤務中にも居眠りしてしまったり・・・。他にも、オレンジ色の画面を見ると恐怖心が起きたり、電車の駅で地面がグラグラ揺れて見えたり、湿気のある閉じられた部屋で会議が始まったりすると、恐怖心が湧いてそこに居られなくなったり。そういう症状がありました。

 それまで工場で頑張ってきたことは誇りにしていましたが、その頃は、ほとんど仕事出来ていないのに給料もらって申し訳ない、とつくづく思いました。

 

 人間、健康が一番。

 この頃は新聞でも「過労死」が取り扱われるようになり、社会全体で対応するようになってきましたが、日々、注意していないと、罠に自ら落ち込んで行ってしまいます。

 

 不調の私でも大切に扱ってくれた会社には、心より感謝しております。

 

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  さて、左の写真は、雨の芝公園。黄葉が始まっています。遊具の置いてある児童公園には、いつもなら幼稚園児が遊んでいたりするのですが、今日は誰もおりません。今は雨は、結構強いです。

 東京でも、ビルが立ち並ぶ区域は、其処に居るだけでも息が詰まる感じがします。芝公園一帯は広くて気持ちが良い。

 人間には木の沢山ある空間が必要かと思っています。

 

 私は靴は運動靴を一足しか持っておらず、これで世界中を歩きます。穴が開いて、雨天の日に水漏れするくらいまで使い切ったりしますが、今の靴もそろそろ限界、代え時かな? 下着もワイシャツも、3つくらいずつしか持っていません。風の人は、いつでもどこかへ気軽に移動できるスタイルです。

 背広だけでも20着くらい持っていた親父さんや、洋服ダンスに綺麗でお洒落な洋服を沢山持っていたお袋さんとは、生活スタイルが全く違います。会社に通うのも山に行くのも、海外に出るのも同じ服なので、いつも友人には笑われています。(無論、洗濯はします。海外でホテルに着いて最初にする仕事は洗濯です)

 

 基本的に、家や服や靴などのようなインフラへは出費せずに、旅だけにお金を集中して使うようなスタイルです・・・。外見の恰好は悪いんだけど。

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