夏の奥穂高は、一般ルートならば体力さえあれば難しい訳ではありません。私も最初は会社に入りたての頃、子供のころからの親友と登りました。初日に涸沢に入って、小屋に宿泊、翌日ザイテングラードを上がりました。難しさはそれほどではありませんが(長野県の子供は、中学生の時に学校行事で八ヶ岳の主稜線を登ったりしており、そういう経験があるるからかもしれませんが)、奥穂から前穂高を通過して上高地に下りるルートは、少し要注意のところがあります。
奥穂の二回目は、女性3名を含む6名の山の会のメンバーで、盛夏、涸沢テント泊で臨みました。この時はまだ福島におりましたので、前日福島からワゴン車で新島々までアプローチ、バスで上高地に入り、そこからテントを二張りと登山用具を担いで一般ルートを登ったのですが、前夜の運転での寝不足も手伝い、超お疲れの登山となりました。
メンバーの一人は、小屋を過ぎたあたりの休息ですっかり寝入ってしまい、涸沢手前の雪田に付いた頃には、全員ほとほと疲れ果てておりました。(荷物は各自20kgという感じでした・・・) 私も雪田を登ろうとするのですが、身体の芯から疲れていて数歩歩くのがやっと! 数歩進めて1分ほど休んで、また数歩進む。こんなにしんどい登山はしたことがありませんでした。
最も実力のある国体選手は仕事の関係で一日遅れで入山ということで、一般メンバーで二張りのテント+コメ沢山を運んだ・・・。ほんとに、よく頑張ったものだと思います。新島々出発の際、あんまり重くて運べず、ワインのボトルを車に置いてきました!
翌日は空身で奥穂に上がりましたが、12時半に山頂に着いたら、その朝に河童橋を出た国体選手は、滝谷登攀用具+ワインボトルを担いで走るように上がってきて、同じ時間に山頂に到着! なんとまあ・・・。(実力の凄さが知れます)
その日は涸沢テント泊後、翌日は4名は槍へと縦走し、2名は滝谷の登攀に向かいました。(国体選手は筋力モリモリですが、そのパートナーは小柄な女性でした。彼女も立派に登攀をやってました!)
涸沢から槍へ向かうルートは、北穂からの下りが難しいです。尾根が細いうえに落石をしそうで、これに非常に気を遣う。何たって足の下で、登攀メンバーたちが難所を落石を避けながら登攀を遣っているわけですから。
北穂の下りを終えると、後は普通の登山です。南岳あたりで雷音がして不安でしたが、アクセルを上げて槍の小屋に到着。2時前でした。
槍の小屋は快適で、疲れたこともあって奮発して、部屋を取って休みました。翌朝のご来光もバッチシでした。帰りは二手に分かれ、尾根組と槍沢組と。帰りは凄く簡単に思えました。
ちなみにこの高さでも高山病の症状の出る人もあります。十分に気をつけましょう。
この登山は爽快でした。夏山としてはピカ一です。
前年にマッターホルンに登っており、今夏はアイガー・モンブランへ行こうと計画していました。今回の奥穂は、その訓練に選びました。5月連休の北アルプスは岩稜に雪が付いて凍り、ヨーロッパアルプスのための準備にはもってこいなのです。それに既に二回登っているので、状況が分かっている・・・。
連休初日は同行予定のパートナー(隣の課の課長さん)に仕事があって、予定より一日遅れて出発しました。
さて、私らが出発する頃、北穂の雪渓で雪崩が起き、巻き込まれた人が亡くなったとの訃報がありました。新島々に車を置いてバスで上高地へ、私らが涸沢に到着した日は、対応に当たった県警も大変な日になっていたのです。
私らの目指すのは雪崩のあった北穂の大きな沢ではなく、ザイテンを上がって奥穂のコル経由での本山登山です。当日の朝は快晴、素晴らしい青空です。登山者も多く、県警からの特別注意放送があって、ザイテンのルートも通常とは違うルートに変更指示が出ていました。また、千葉工大のヒマラヤチームと、プロの率いる二つのグループが、前穂の北尾根を目指しており、涸沢からの県警のアナウンスは、そのルートは辞めて欲しい趣旨のものでしたが、高い目標を持ち、もっと厳しい困難が待ち受けるはずのルートへ出向く人たちは、何事もなく登って行きました。
私とパートナーはザイテンを上がり、奥穂のコルの前の小屋の前で小休止。実はこの小屋からの第一歩となる岩壁が少し急なのですが、そこで或る大学のパーティが、新人らしい初心者を連れてきたようで、全然登れない様子なのです。ロープを使ってその彼を確保しているので、他の登山者が登れる余地がない。正直、こういう本ルートで、そういうレベルの訓練はしないで欲しいなあ・・・。(そういう訓練は他の誰もこない場所で遣っておくべきなんです。私らがフリーですいすい上がるような場所を上がれないようでは、困るのです)
ようやく順番を待って、奥穂まではフリーで上がり、登頂後下って、一般ルートから離れた場所でザイルで身体を確保、雪の斜面を下がって登り返す、という訓練をし、更には涸沢岳まで足を延ばしました。
涸沢岳の西斜面は岐阜に伸びているのですが、これが素晴らしい開けた景色の尾根! 夏には登れないルートです。訓練が目的なので、私らはそのルートを少し下って登り返し、再びコルへ戻って涸沢へと降りてきましたが、何と周りで見かけた外国人登山者・・・、普通のズックで上がってきている。これじゃあダメです。県警は、北尾根に挑むプロチームに注意を喚起するだけではなくて、こういう無謀な一般登山者に、ちゃんとした注意喚起を行うべきかと思います。(その昔、私もズックで雪の着いた一の倉沢に挑んでしまったりしましたが、そういう無茶はもうしません)
その夏、訓練の甲斐もあって、私とパートナーの課長さんは、無事にフランス・モアヌ針峰とモンブランに登りました。(その冬は他にも何度も那須・旭岳に足を運んで、訓練を積んでおりました)